あらすじ
天と地が分かれたばかりのころ、高天原に次々と神が現れては身を隠した。最後に現れたのがイザナギとイザナミ。天つ神は二人に「この漂う国を固め成せ」と命じ、玉飾りの矛を授ける。
二人は天の浮橋に立ち、矛を下ろして海をかき回した。引き上げると、先から滴った塩が積もって島になる。オノゴロ島。二人はそこに降り、太い柱を立て、柱を回って出会い、夫婦になる。
最初の子は骨のない蛭子で、葦の舟に乗せて流した。天つ神に占ってもらうと、女が先に声をかけたのがよくない、という。やり直して、淡路、四国、隠岐、九州、壱岐、対馬、佐渡、そして本州。八つの島だから大八島国。
読みどころ
世界を作るのは、命令でも言葉でもなく、かき回すという手仕事だという点。ユダヤの神は「光あれ」と言い、中国の盤古は身体で天地を押し分ける。古事記の神は、矛で海をかき混ぜて、塩を固める。塩田の作業そのものだ。
もうひとつは、最初の子が失敗であること。柱を回る儀礼の手順を間違えると、うまく生まれない。物語の冒頭で「正しい手順」が強調されるのは、この本が記録した目的、すなわち儀礼と系譜の正統性の確認と、まっすぐつながっている。
世界の似た物語
天と地がくっついていて、引き離すところから世界が始まる話は太平洋に多い。マオリのランギとパパは、抱き合った天の父と地の母を子どもたちが押し分ける。中国の盤古は、卵の中で育った巨人が殻を割って天地を分ける。古事記の「天地初めて発けし時」は、その切り分けが済んだあとから語り始めていて、切り分けの場面そのものは省かれている。
夫婦神が島を「生む」という点では、ギリシアのガイアとウラノスが近い。ただしギリシアでは生まれるのは神々で、島は生まれない。国土そのものを子として生むのは、古事記の際立った特徴。