同じ時期に、7,170と7,674という答えがある
世界にいくつ言語があるか。もっともよく引かれるのは、SIL International が出す Ethnologue の数字だ。2026年の第29版は、生きている言語を約7,170としている(前年版から11増えている、という書き方をする)。
一方、ドイツのマックス・プランク研究所が編むデータベース Glottolog(5.3)は、母語として話される音声言語を約7,674、手話を約227、あわせて約8,238の単位を並べる。どちらもいいかげんな集計ではない。それでも約500の差が出る。差は調査の抜けではなく、数える基準の差である。
基準は「通じるかどうか」、でも通じ方は連続している
言語と方言を分ける物差しとしてよく使われるのが相互理解可能性だ。予備知識なしで互いに通じないなら別の言語、という考え方で、Ethnologue も Glottolog もこれを軸に据えている。
ところが現実の言語は、境目のない方言連続体をつくる。村から村へ少しずつ変わっていき、隣どうしは通じるのに、両端は通じない。どこに線を引いても、引いた人の判断が残る。
この扱いにくさに対して、言語コードの国際規格 ISO 639-3 は「マクロランゲージ」という枠を用意した。ひとつの名前の下に、通じ合わない複数の言語をまとめる箱である。中国語(zho)はその代表で、北京語や広東語など約19の個別言語が下にぶら下がる。アラビア語(ara)にいたっては約30。こうした箱は全体で約60ある。中国語を1と数えるか19と数えるかで、世界の総数はあっさり動く。
線を引くのは、しばしば言語学ではない
ドイツの社会言語学者ハインツ・クロスは1952年、アプシュタント言語(言語的な距離そのもので独立していると言えるもの)とアウスバウ言語(距離は小さいが、標準語として整備され独立したもの)という区別を提案した。
後者の例はわかりやすい。セルビア語・クロアチア語・ボスニア語・モンテネグロ語は同じ方言基盤を持ち、話者どうしはほぼ問題なく通じる。ヒンディー語とウルドゥー語も、話しことばとしては近い。ノルウェー語・スウェーデン語・デンマーク語も、書きことばを別にすればかなり通じ合う。それでも別々に数えられるのは、それぞれに国と正書法と教育制度があるからだ。
「約4,000」という数え方もある
数える基準を変えると、答えも変わる。Ethnologue は、約7,170の言語のうち、書きことばが整えられているのは約4,150だとしている。残りの半数近くは文字を持たないか、文字はあってもどれだけ使われているかがわからない。「文字で読める言語」だけを数えれば、世界の言語は約4,000ということになる。
| 数え方 | おおよその数 |
|---|---|
| Glottolog 5.3(母語として話される音声言語) | 約7,674 |
| Ethnologue 第29版(生きている言語) | 約7,170 |
| そのうち書きことばがあるもの | 約4,150 |
| 世界人口の半分以上をまかなう言語 | 約23 |
最後の行が効いている。数のうえでは7,000あっても、人口のうえでは約23言語が半分を占める。逆にいえば、残りの約7,000で、もう半分を分け合っている。ちなみに国別でいちばん言語が多いのはパプアニューギニアで、約840。
で、日本語はどうか
日本の言語はいくつか、と聞かれると、たいていは「日本語とアイヌ語」で終わる。だが2009年、ユネスコは『消滅の危機にある言語の地図』で、日本国内の8つを危機言語として挙げた。アイヌ語、八丈語、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語、八重山語、与那国語である。理由は明快で、これらは日本語と互いに通じないから、というものだ。
国内では長く「方言」と呼ばれてきたものが、通じるかどうかという基準では別の言語になる。世界の総数をめぐる議論は、遠い国の話ではなく、そのまま日本列島の話でもある。
ついでに言えば、「どの語族にも入らない言語」という数え方の難所もある。Glottolog は約183の孤立言語を数えていて、その代表がバスク語だ。系統でまとめられないことばは、家系図のどこにも置けないまま1として数えるしかない。
結局のところ、言語の数は「世界にいくつあるか」ではなく「私たちが何を一つと見なすか」の答えである。索引に並ぶ50あまりの言語も、その線の引き方の上に立っている。
言語や文字の分類は研究者によって幅があります。本文は代表的な整理にもとづく概説です。