120の言語のうち、青と緑を別の語で言うのは約30だけ
英語の話し手にとって、blue と green は別の色だ。ところが世界を見わたすと、これはむしろ少数派になる。言語の特徴を地図にまとめた『WALS(世界言語構造地図)』で、ポール・ケイとルイサ・マッフィは約120の言語を調べ、青と緑の言い分け方を整理した。
| 青と緑の言い方 | 言語の数(約) |
|---|---|
| 青と緑をひとつの語で言う | 68 |
| 青と緑を別の語で言う | 30 |
| 黒・緑・青をひとつの語で言う | 15 |
| そのほかの分け方 | 7 |
いちばん多いのは、青と緑をまとめてひとつの語で呼ぶ言語である。言語学ではこの色のまとまりを、green と blue をくっつけてgrue(グルー)と呼ぶ。青と緑を分けるのは、世界の標準ではなく、ひとつの選び方にすぎない。
色の名前は、決まった順番で増えていく?
1969年、ブレント・バーリンとポール・ケイは『基本色彩語』という本で、ある仮説を出した。言語は色の名前を好きな順に増やすのではなく、だいたい決まった順番で手に入れる、というものだ。
最初は「明るい・暗い」の区別、次に赤、そのあと緑か黄、そして青。茶色や紫、ピンク、オレンジ、灰色が基本の色名として出てくるのは、青と緑が分かれたあとになる、とされた。英語はこの基本色名を11持つ言語として挙げられている。
この順番は、その後の研究や批判でかなりゆるめられた。それでも、青と緑が「あとから分かれる」ことが多いという見方は、いまも広く共有されている。
分けない言語、分けはじめた言語
ベトナム語の xanh は、もともと青と緑の両方を指した。いまは xanh da trời(空の色の xanh)と xanh lá cây(木の葉の xanh)のように、ことばを足して言い分ける。
ウェールズ語の glas は、青だけでなく緑や灰色まで含む語だった。緑には、ラテン語の viridis から来た gwyrdd がいまは標準として使われ、英語の影響で glas は「青」に絞られつつあるという。
朝鮮語の 푸르다(プルダ)は、空にも森にも使える。青だけを指すはずの 파랗다(パラタ)も、信号の「進め」を言う 파란 불 では緑の光を指す。中国語でも、漢字の青はもともと青と緑の両方を表し、いまの標準語では 蓝(青)と 绿(緑)が分かれている。
逆に、青をふたつに分ける言語もある
ロシア語は、英語なら同じ blue のなかを、明るい голубой(ガルボーイ)と暗い синий(シーニイ)に分ける。濃淡のちがいではなく、赤と黄のような別の色として扱われる。
2007年、ジョナサン・ウィナワーやレラ・ボロディツキーらは、ロシア語と英語の話し手に青い色見本を見せ、2つの色がちがうかどうかをすばやく判断してもらう実験をした。ロシア語の話し手は、2つの色が голубой と синий の境目をまたぐときのほうが、同じ側にあるときより速く見分けた。英語の話し手には、この差は出なかった。さらに、頭のなかで言葉を使う作業を同時にさせると、この有利さは消えたという。色の名前が、見分ける速さに少し手を貸しているらしい。
で、日本語はどうか
日本語も、もとは青と緑を分けない側だった。色名だけで「〜い」の形容詞になるのは、いまも赤い・青い・白い・黒いの4つしかない。古い日本語で「あお」は、いまの青から緑までを広くおおっていた。
緑が色の名前として使われるようになったのは平安時代からで、はじめは「あお」の一種と考えられていた。教科書などで青と緑をはっきり分けて教えるようになったのは、第二次世界大戦のあとである。
その名残が、いまも身のまわりにある。青りんご、青菜、青葉。そして信号だ。日本初の自動信号機は1930年に東京・日比谷に置かれ、当時の規則では「緑色信号」と書かれていた。ところが新聞が「青」と書いたことから「青信号」の呼び方が広まり、1947年には法令の表現も青に変わったとされる。
緑に見える光を青と呼ぶのは、まちがいではなく、日本語がかつて青と緑を分けなかった記憶である。世界の多くの言語は、いまもその側にいる。
言語や文字の分類は研究者によって幅があります。本文は代表的な整理にもとづく概説です。