「漢字はいくつあるか」に、答えはひとつではない
アルファベットなら26字、ひらがななら46字と、だいたい答えが決まる。ところが漢字は、尋ねる相手によって答えが2,000にも5万にも10万にもなる。漢字は新しく作ることができ、字形の違うものを別の字と数えるかどうかでも数が変わるからだ。
つまり「漢字の数」は、ひとつの数ではなく、目的ごとに引かれた複数の線である。辞書が集めた数、国が「よく使う」と決めた数、コンピューターで扱える数。この記事では、その線を順に見ていく。
辞書は、時代ごとに字を増やしてきた
漢字を部首で分類した最初期の字書は、後漢の許慎による『説文解字』である。西暦100年ごろに序が書かれ、見出しの字は約9,353字だった。それから約1,600年後、清の康熙帝の命で1716年に作られた『康熙字典』は、約4万7千字を収める。漢和辞典の部首の並びは、いまもこの字典にならうことが多い。
| 辞書 | 成立 | 収録字数 |
|---|---|---|
| 説文解字(中国) | 100年ごろ | 約9,353字 |
| 康熙字典(中国) | 1716年 | 約47,035字 |
| 大漢和辞典(日本) | 1955〜1960年 | 約5万字 |
| 中華字海(中国) | 1994年 | 約85,568字 |
日本の『大漢和辞典』は、諸橋轍次を代表として編まれ、親字約5万字、熟語約53万語を収める。『中華字海』の約8万5千字は、異体字や簡体字・繁体字の重複も含んだ数だとされる。字数が増えたのは、新しい字が次々に生まれたからというより、古い文献に一度だけ出てくる字や、同じ字の書き方違いまで拾い集めた結果である。
いちばん大きい数——コンピューターの約10万字
いま最も大きな「漢字の数」は、文字コードの国際規格 Unicode にある。中国・日本・韓国・ベトナムなどの漢字を、同じ字なら1つにまとめて番号をつけた「CJK統合漢字」で、拡張を重ねて約10万字(Wikipedia によれば最新版で101,997字)に達した。
このなかには、人名や地名にしか使われない字、歴史資料に一度だけ現れる字、ベトナムの字喃のように漢字にならって作られた字も含まれる。読める人がほとんどいない字でも、資料をデジタルで正しく残すには番号が必要になる。約10万という数は「使われている字」ではなく「記録しておきたい字」の数だと考えたほうがよい。
国が決める「ふつうの字」——中国の8,105字
辞書とは逆向きに、国が「これだけ使えば足りる」という範囲を決める線もある。中国語の中国本土では、2013年に『通用規範漢字表』が公布された。収録は約8,105字で、そのうち日常によく使う一級字が約3,500字、二級が約3,000字、専門分野や人名・地名のための三級が約1,605字である。
韓国語では、漢字はハングルの陰に退いたが、名前には今も漢字が使われる。人名に使える漢字の表は1991年に導入され、2015年までに約8,142字へ広がった。読み書きの日常からは離れても、名前の字としては多くの漢字が生きている。
で、日本語はどうか
日本語の「ふつうの字」の線は、常用漢字表である。1946年の当用漢字は約1,850字、1981年の常用漢字は約1,945字、2010年の改定で196字が加わり、5字が外れて約2,136字になった。このとき加わったのが「挨」「曖」「嵐」などで、外れたのが「匁」「銑」などだ。
| 線の名前 | 字数 | 何のための線か |
|---|---|---|
| 学年別漢字配当表 | 約1,026字 | 小学校で学ぶ字 |
| 常用漢字表(2010年) | 約2,136字 | 一般の社会生活の目安 |
| 常用漢字+人名用漢字 | 約3,000字 | 子どもの名前に使える字 |
| JIS第1・第2水準 | 約6,355字 | パソコンで扱う基本の字 |
小学校で約1,026字、中学以降で残りの約1,110字を学び、常用漢字がそろう。名前に使える字は人名用漢字を足して約3,000字、1978年に定められた JIS の第1・第2水準は約6,355字である。新聞や本を読むのに必要な字は数千字にとどまる一方、辞書は5万字、Unicode は10万字を抱えている。
言語や文字の分類は研究者によって幅があります。本文は代表的な整理にもとづく概説です。