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越南 Việt Nam · 韓國 한국

漢字を手放した国々——ベトナムと韓国の選択

「越南」も「韓國」も、もとは漢字で書く国名だった。ベトナムは宣教師の文字を、韓国は自前の文字を選んで、漢字を日常から外した。

2026-10-07 / 言語と物語の図鑑 編集部

漢字の国は、もともと4つあった

中国、日本、朝鮮半島、ベトナム。この4つの地域は、千年以上にわたって漢字で公の文書を書いてきた。話すことばはまるで違うのに、役所の文書も学問も、漢文という共通の書きことばで書かれていた。だから「越南」「韓國」と書けば、どの国の知識人にも読めた。

いま、漢字を日常の文字として使っているのは中国語圏と日本だけである。ベトナム語はラテン文字で書かれ、韓国の新聞や看板はほとんどがハングルだ。同じ「漢字の国」だった2つの国は、20世紀のうちに漢字を手放した。ただし、その道すじはずいぶん違う。

ベトナム——宣教師の文字が、国の文字になるまで

ベトナムには、漢字のほかにチューノム(字喃)という文字があった。漢字を組み合わせてベトナム語の固有語を書く、ベトナムで生まれた文字だ。それでも公の書きことばは長く漢文のままだった。

いまのラテン文字表記クオックグー(chữ quốc ngữ、「国語の文字」)は、外から来た。1620年ごろからポルトガル人宣教師フランシスコ・デ・ピナらがベトナム語をラテン文字で書き取りはじめ、1651年にはアレクサンドル・ド・ロードがベトナム語・ポルトガル語・ラテン語の辞書をローマで出版した。とはいえ、その後約200年、この文字はほぼカトリック信者のあいだでしか使われなかった。

流れを変えたのはフランスの植民地支配である。

年できごと
1910フランス植民地当局がクオックグーを公式の文字として扱うよう定める
1919フエで最後の科挙が行われ、漢文にもとづく官吏登用が終わる
1945独立直後の政府が識字運動「ビンザン・ホックヴー」を始める。教えたのはクオックグー

植民地政府のねらいは漢文の伝統から人びとを切り離すことだったが、皮肉にも、覚えやすいラテン文字は独立運動の新聞や教科書を広める道具になった。1945年当時、人口の90%以上が読み書きできなかったとされ、識字運動は1年で約250万人に読み書きを教えたという。漢字を学ぶ時間をかけずに読めるようになる。それがこの文字の強みだった。

韓国——自分たちの文字は、すでにあった

韓国の事情は逆だ。朝鮮語のための文字ハングルは、1446年に世宗の『訓民正音』として公布されている。文字はあったのに、公の文書は約450年のあいだ漢文で書かれつづけた。

転機は1894年、甲午改革期の勅令で、法令は「国文」(ハングル)を基本とし、漢文訳をつけるか国漢文を混ぜてよいとされた。大韓民国成立後の1948年10月9日には「ハングル専用に関する法律」が公布され、公文書はハングルで書くこと、ただし当分のあいだ必要なら漢字を併用できることが定められた。北朝鮮は1949年に公の場での漢字使用をやめている。

南の歩みは一直線ではない。1968年からハングル専用が強く進められ、1971年には小学校の教科書がハングルだけに戻った。一方で1972年には中学・高校で教える教育用基礎漢字1,800字が定められ、いまも漢字は「読み書きの文字」ではなく「学ぶ教養」として残っている。朝鮮語の語彙の約半分は漢字に由来するともいわれ(約3割とする見方もある)、수도が「首都」にも「水道」にもなるように、ハングルだけでは同じ綴りになる語も多い。それでも文脈で十分に読める、というのが韓国の選んだ答えだった。くわしくは韓国語の図鑑に書いた。

手放したのは文字であって、漢語ではない

2つの国が手放したのは、あくまで文字のほうだ。ベトナム語の辞書の代表格では、語彙の約40%が漢語に由来するという。「Việt Nam」は越南、「Hàn Quốc」は韓國の読みである。中国語由来の語は、いまも両方の言語の骨格になっている。違うのは、それを漢字で書くか、音を写す文字で書くかである。

で、日本語はどうか

日本も漢字を減らす方向に動いたことがある。1946年の当用漢字は、日常で使う漢字を1,850字に絞る表だった。だが1981年の常用漢字は1,945字を「目安」とし、2010年には2,136字に増えた。制限から目安へ、そして増加へ。日本は手放さない道を選んだ。

ひらがなとカタカナがあれば、日本語は漢字なしでも書ける。それでも漢字を残したのは、同音語の多さや、文の切れ目が見やすいことなどが理由に挙げられる。ベトナムは新しい文字で識字を広げ、韓国は自前の文字に切り替え、日本は混ぜて使いつづけた。中国語の図鑑や日本語の図鑑と並べて読むと、同じ漢字から出発した4つの書きことばの違いが見えてくる。

漢字を手放しても、漢字で作られたことばは残る。変わったのは、目に見える形のほうだけだ。ベトナムと韓国の文字改革から