語順は6通りある。でも、ほとんどの言語は2つに入る
主語(S)・目的語(O)・動詞(V)を並べる順番は、理屈のうえでは6通りある。SOV、SVO、VSO、VOS、OVS、OSV。6つが世界に均等に散らばっていてもよさそうなものだが、現実はまったく均等ではない。
『世界言語構造地図(WALS)』が約1,376の言語を調べた集計では、SOVが約564、SVOが約488。この2つだけで全体の約8割を占める。残り4通りは合わせて約135、つまり1割に届かない。そして「これが基本」と言い切れる語順を持たない言語も約189ある。
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| 型 | 例 | 言語数(約) |
|---|---|---|
| SOV | 日本語・韓国語・トルコ語・ヒンディー語・バスク語 | 564 |
| SVO | 英語・中国語・スワヒリ語・ベトナム語 | 488 |
| VSO | アイルランド語・ウェールズ語・タガログ語 | 95 |
| VOS | ニアス語(インドネシア・スマトラ島) | 25 |
| OVS | ヒシュカリヤナ語(ブラジル) | 11 |
| OSV | ナデブ語(ブラジル) | 4 |
| 決まった語順を持たない | ドイツ語・オランダ語 | 189 |
目を引くのは、SとOのどちらが先に来るかだ。Sが先の型(SOV・SVO・VSO)を足すと約1,147、Oが先の型(OVS・OSV)は合わせて約15しかない。ジョゼフ・グリーンバーグが1963年に約30の言語から引き出した「普遍性」のリストでも、その第1条がこれだった。名詞の主語と目的語がそろった平叙文では、主語が目的語に先立つのがほぼ常である、と。
ドイツ語やオランダ語が「決まった語順を持たない」に入るのは、いいかげんだからではない。主節では動詞が2番目に来てSVOに見えるのに、従属節では動詞が最後に回ってSOVになる。文の種類で規則が切り替わるので、どちらか一方を代表にできないのである。
語順は、ドミノのように連動している
おもしろいのは、OとVの順番が決まると、文のほかの部分の並びまでかなり予想がついてしまうことだ。もっともはっきりしているのが、助詞・前置詞のたぐい(言語学では接置詞と呼ぶ)の位置である。
WALSが約1,142言語で両方を照らし合わせたところ、OV型で後置詞を使う言語が約472、VO型で前置詞を使う言語が約456。合わせて全体の約8割強で、きれいに対応している。逆の組み合わせは少なく、OV型なのに前置詞を使う言語は約14(ペルシア語など)しかない。
日本語で「机の上に」と後ろに置くものを、英語は on the desk と前に置く。これは偶然ではなく、SOVかSVOかという一枚目のドミノが倒した先の結果だと考えられている。名詞を修飾する節の位置や、比較の言い方にも似た相関があり、この「語順の相関」を説明することが、グリーンバーグ以降の言語類型論の中心テーマになった。
語順は、変わる
語順は言語の固定装備ではない。英語がいい例で、古英語は主節で動詞が2番目に来て、従属節では動詞が最後に回る、いまのドイツ語に近い姿だった。名詞の格変化がすり減って「誰が誰を」を示せなくなるにつれ、その仕事を語順が引き受け、中英語を経てSVOに固まっていった。
ヘブライ語も動いている。聖書ヘブライ語の物語文は動詞が先に立つVSOが基本だったが、後代にSVOが優勢になり、現代ヘブライ語はほぼSVOである。語順は何千年も同じところに留まるものではなく、格の衰えや周囲の言語との接触で、ゆっくり並べ替えられていく。
で、日本語はどうか
日本語は多数派のSOVである。韓国語、トルコ語、バスク語といった、系統のまったく違う言語と同じ型に入る。系統が近いから似るのではなく、同じ型を選んだから似る、という見本のような並びだ。
ただし日本語には格助詞があるので、順番はかなり自由に入れ替えられる。「私がパンを食べた」を「パンを私が食べた」と言っても、誰が食べたのかは揺るがない。「が」と「を」が役割を背負っているからだ。英語で Bread ate I. とやると意味が壊れるのと対照的である。
それでも動詞だけは最後に居座る。否定も、過去も、丁寧さも、文末に来る。日本語は最後まで聞かないと話の向きが確定しない言語で、同時通訳の難しさもここに根がある。ほかの言語の語順が気になったら、索引から一つずつのぞいてみてほしい。
言語や文字の分類は研究者によって幅があります。本文は代表的な整理にもとづく概説です。