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ことばのはなし — 音
ら ㄹ L R

「R」と「L」を分けない言語は、日本語だけではない

right と light が聞き分けにくいのは、日本語の話し手だけではない。韓国語もハワイ語もマオリ語も、RとLをひとつの音として扱っている。

2026-10-10 / 言語と物語の図鑑 編集部

「RとLが言えない」のは、日本語だけの弱点ではない

英語を習うと、たいてい一度はright と light、rice と lice でつまずく。そして「日本人はRとLが苦手」という話になる。だが世界を見わたすと、RとLを別の音として区別しない言語は少しもめずらしくない。お隣の韓国語も、北海道のアイヌ語も、太平洋のハワイ語やマオリ語もそうだ。

音声学では、RやLのような音をまとめて流音(liquid)と呼ぶ。舌が口の中をさえぎりきらず、息がなめらかに流れる音、というくらいの意味だ。問題は、この流音を「いくつに分けるか」が言語ごとにちがうことにある。

世界の言語の約17%には、そもそも「L」がない

世界の言語の音を比べたデータベース WALS(世界言語構造地図)には、Ian Maddieson が約570の言語を調べた「側面音(Lの仲間)」の章がある。その数字はこうだ。

Lの仲間の持ち方言語の数
普通の /l/ がある(ほかの特殊な側面音はない)388(約69%)
Lの仲間がひとつもない95(約17%)
その他(特殊な側面音を持つ、など)84

Lを持たない言語は、南アメリカ北部とニューギニアに多い。しかも、その約3分の1は流音をまったく持たない。北アメリカの先住民の言語では、R の音がない言語が多数派だとされる。RとLの両方をそろえる英語は、世界の標準というより、ひとつの選び方にすぎない。

また、流音がひとつしかない言語では、それがLよりもRの側になりやすいという傾向も知られている。日本語やアイヌ語はまさにこの型だ。

ひとつの音を、場所で言い分ける——韓国語

韓国語のハングル「ㄹ」は、ローマ字では r とも l とも書かれる。じつはこれがひとつの音の2つの顔なのだ。母音にはさまれると舌先で軽くはじく[ɾ]になり、바람(パラム、風)のように聞こえる。語末や子音の前では舌を歯ぐきにつけたままの[l]になり、발(パル、足)となる。

出る場所が決まっているので、話し手は2つの音を「別の音」と感じない。英語話者が right と light を区別するのは、同じ場所にどちらも出られるからで、そこが決定的なちがいである。

中国語は少しちがう。標準中国語はピンインの l と r(そり舌の [ʐ]〜[ɻ])を別の音として持つ。一方、広東語には r にあたる音がなく、香港の若い世代では n と l の区別まで薄れつつある。同じ「中国語」の仲間でも、流音の数はそろっていない。

ハワイ語はLを選び、マオリ語はRを選んだ

ポリネシアの言語は流音をひとつしか持たないのが普通だが、それをLと書くかRと書くかは言語によって分かれた。

ハワイ語は子音がわずか8つで、流音は /l/ だけだ。ただし実際の発音は [l] から舌をはじく [ɾ] までゆれ、初期の宣教師はこれを d で書きとめたこともある。aloha や mahalo の l は、日本語の「ラ」に近く聞こえてもかまわない音なのだ。

いっぽうマオリ語は子音が約10で、流音は /r/ ひとつ。ふだんは舌をはじく [ɾ] だが、19世紀の記録では南島の方言で [l] の発音がよく聞かれたという。文字の上では R と L に分かれていても、中身は「流音がひとつ」という同じ設計だ。

で、日本語はどうか

日本語のラ行は、もっとも典型的には舌先で歯ぐきを一度はじく[ɾ]である。ただし [l] に近い発音もごく普通に出て、とくに文の頭や「り」の前で目立つ。東京の下町ことばでは巻き舌の [r] も聞かれ、荒っぽい響きの印とされてきた。つまり日本語の話し手は、英語のRに近い音もLに近い音も、すでに口にしている。区別していないだけなのだ。

この「区別しない」は生まれつきではない。Patricia Kuhl らの研究(2006年)では、生後6〜8か月の日本とアメリカの赤ちゃんは英語の r と l を同じくらい聞き分けた。ところが10〜12か月になると、アメリカの赤ちゃんは伸び、日本の赤ちゃんは下がる。まわりで使われている区別に耳を合わせていく過程で、使われない区別は手放されていくわけだ。

アイヌ語も流音は /r/ ひとつで、日本語と同じ側にいる。RとLを分けない言語は、世界の地図の上ではむしろありふれた仲間たちなのである。

RとLを分けないのは、耳が鈍いからではない。その言語が、ほかの区別に耳を使うことを選んだからだ。流音がひとつの言語は、日本・朝鮮半島・ポリネシア・アマゾンに広がっている
出典・参考:WALS Online: Chapter 8 Lateral Consonants(Ian Maddieson) / Wikipedia: Liquid consonant / Wikipedia: Korean phonology(ㄹの[ɾ]/[l]) / Wikipedia: Hawaiian phonology / Wikipedia: Māori phonology / Wikipedia: Japanese phonology / Wikipedia: Cantonese phonology / Wikipedia: Ainu language / Kuhl, P. K. et al. (2006). Infants show a facilitation effect for native language phonetic perception between 6 and 12 months. Developmental Science, 9(2), F13–F21
言語や文字の分類は研究者によって幅があります。本文は代表的な整理にもとづく概説です。