「RとLが言えない」のは、日本語だけの弱点ではない
英語を習うと、たいてい一度はright と light、rice と lice でつまずく。そして「日本人はRとLが苦手」という話になる。だが世界を見わたすと、RとLを別の音として区別しない言語は少しもめずらしくない。お隣の韓国語も、北海道のアイヌ語も、太平洋のハワイ語やマオリ語もそうだ。
音声学では、RやLのような音をまとめて流音(liquid)と呼ぶ。舌が口の中をさえぎりきらず、息がなめらかに流れる音、というくらいの意味だ。問題は、この流音を「いくつに分けるか」が言語ごとにちがうことにある。
世界の言語の約17%には、そもそも「L」がない
世界の言語の音を比べたデータベース WALS(世界言語構造地図)には、Ian Maddieson が約570の言語を調べた「側面音(Lの仲間)」の章がある。その数字はこうだ。
| Lの仲間の持ち方 | 言語の数 |
|---|---|
| 普通の /l/ がある(ほかの特殊な側面音はない) | 388(約69%) |
| Lの仲間がひとつもない | 95(約17%) |
| その他(特殊な側面音を持つ、など) | 84 |
Lを持たない言語は、南アメリカ北部とニューギニアに多い。しかも、その約3分の1は流音をまったく持たない。北アメリカの先住民の言語では、R の音がない言語が多数派だとされる。RとLの両方をそろえる英語は、世界の標準というより、ひとつの選び方にすぎない。
また、流音がひとつしかない言語では、それがLよりもRの側になりやすいという傾向も知られている。日本語やアイヌ語はまさにこの型だ。
ひとつの音を、場所で言い分ける——韓国語
韓国語のハングル「ㄹ」は、ローマ字では r とも l とも書かれる。じつはこれがひとつの音の2つの顔なのだ。母音にはさまれると舌先で軽くはじく[ɾ]になり、바람(パラム、風)のように聞こえる。語末や子音の前では舌を歯ぐきにつけたままの[l]になり、발(パル、足)となる。
出る場所が決まっているので、話し手は2つの音を「別の音」と感じない。英語話者が right と light を区別するのは、同じ場所にどちらも出られるからで、そこが決定的なちがいである。
中国語は少しちがう。標準中国語はピンインの l と r(そり舌の [ʐ]〜[ɻ])を別の音として持つ。一方、広東語には r にあたる音がなく、香港の若い世代では n と l の区別まで薄れつつある。同じ「中国語」の仲間でも、流音の数はそろっていない。
ハワイ語はLを選び、マオリ語はRを選んだ
ポリネシアの言語は流音をひとつしか持たないのが普通だが、それをLと書くかRと書くかは言語によって分かれた。
ハワイ語は子音がわずか8つで、流音は /l/ だけだ。ただし実際の発音は [l] から舌をはじく [ɾ] までゆれ、初期の宣教師はこれを d で書きとめたこともある。aloha や mahalo の l は、日本語の「ラ」に近く聞こえてもかまわない音なのだ。
いっぽうマオリ語は子音が約10で、流音は /r/ ひとつ。ふだんは舌をはじく [ɾ] だが、19世紀の記録では南島の方言で [l] の発音がよく聞かれたという。文字の上では R と L に分かれていても、中身は「流音がひとつ」という同じ設計だ。
で、日本語はどうか
日本語のラ行は、もっとも典型的には舌先で歯ぐきを一度はじく[ɾ]である。ただし [l] に近い発音もごく普通に出て、とくに文の頭や「り」の前で目立つ。東京の下町ことばでは巻き舌の [r] も聞かれ、荒っぽい響きの印とされてきた。つまり日本語の話し手は、英語のRに近い音もLに近い音も、すでに口にしている。区別していないだけなのだ。
この「区別しない」は生まれつきではない。Patricia Kuhl らの研究(2006年)では、生後6〜8か月の日本とアメリカの赤ちゃんは英語の r と l を同じくらい聞き分けた。ところが10〜12か月になると、アメリカの赤ちゃんは伸び、日本の赤ちゃんは下がる。まわりで使われている区別に耳を合わせていく過程で、使われない区別は手放されていくわけだ。
アイヌ語も流音は /r/ ひとつで、日本語と同じ側にいる。RとLを分けない言語は、世界の地図の上ではむしろありふれた仲間たちなのである。
言語や文字の分類は研究者によって幅があります。本文は代表的な整理にもとづく概説です。