日本の法律には「日本語が公用語」とは書いていない
日本語は日本の公用語だ、と多くの人は思っている。ところが憲法にも法律にも、日本語を公用語と定めた条文はない。いちばん近いのは裁判所法第74条の「裁判所では、日本語を用いる。」という一文で、これも裁判所の中だけの決まりである。日本語は、法で決めるまでもなく使われてきた事実上の公用語なのだ。
公用語とは、国や地方の役所・議会・裁判所などが公に使うと定めた言語のことである。定め方は国によってまちまちで、憲法に十数個を並べる国もあれば、何も書かない国もある。
公用語を10以上並べる国
数の多い国は、アフリカと南米に目立つ。
| 国 | 公用語の数 | 決め方 |
|---|---|---|
| ボリビア | 37 | 2009年の憲法第5条。スペイン語と先住民族の36言語 |
| ジンバブエ | 16 | 憲法。英語・ショナ語・ンデベレ語のほか、手話も含む |
| 南アフリカ | 12 | 憲法第6条。2023年に南アフリカ手話が加わった |
| スイス | 4 | ドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語 |
ボリビアの36言語には、すでに話し手がいないとされるものも含まれる。数を並べること自体が、どの民族の言葉も国の言葉だと宣言する意味を持っている。憲法は国と県の政府に、スペイン語ともう1言語、少なくとも2つの公用語で仕事をするよう求めている。
ズールー語を含む南アフリカの公用語は、長いあいだ11だった。2023年5月に国会が憲法改正を可決し、7月19日にラマポーザ大統領が署名して、手話が12番目になった。手話を公用語にしたアフリカの国は、ケニア・ジンバブエ・ウガンダに続いて4か国目である。
「国の言葉」と「役所の言葉」は別のこともある
スイスのロマンシュ語は、段階を踏んで地位を上げてきた。1938年の国民投票で約91.6%の賛成を得て国語になったが、連邦の公用語ではなかった。1996年の憲法改正で、ロマンシュ語を話す人とのやりとりに限った部分的な公用語になっている。話し手は国民の1%にも満たないが、国の言葉として名を連ねている。
インドはもっと込み入っている。憲法第343条が連邦の公用語に定めるのはデーヴァナーガリー文字のヒンディー語で、英語も1963年の公用語法で使い続けられることになった。一方、憲法の第8付則にはタミル語などを含む22言語が並ぶ。これは公用語の一覧ではなく、国が発展を後押しする言語の一覧だ。インドの憲法には「国語」の規定もない。
ペルーでは、スペイン語のほかにケチュア語やアイマラ語が、それが主に話されている地域で公用語になる。公用語には、国全体ではなく場所を限って効く形もある。
法律で決めていない国
逆に、公用語を法で定めていない国も少なくない。イギリスは英語を国の公用語とする法律を持たず、ウェールズ語やスコットランド・ゲール語などが地域ごとに認められている。メキシコも国の公用語を定めておらず、2003年の法律でスペイン語と先住民族の言語を等しく国語とした。その数は約68の言語グループにのぼる。ニュージーランドで公用語と定められているのはマオリ語とニュージーランド手話で、英語は事実上の公用語という扱いだ。
アメリカはながく、連邦として公用語を持たない国の代表例だった。議会では英語を公用語にする法案が何度も出たが、成立していない。2025年3月1日、大統領令14224号で英語が初めて公用語に指定された。ただし大統領令は議会が作る法律とは別のもので、法律上の公用語はいまもない。州のレベルでは約30の州が英語を公用語にしており、ハワイ州は1978年からハワイ語も公用語にしている。
で、日本語はどうか
日本で公用語の法律がないのは、英米と同じく、多数派の言語が当たり前すぎて決める必要がなかったからだろう。多くの公用語を並べる国は、言語の数そのものより、どの言葉を国の言葉と認めるかを争い、話し合ってきた国である。
日本にも、アイヌ語や琉球の言葉、日本手話がある。2019年のアイヌ施策推進法はアイヌの文化の振興を定めたが、アイヌ語を公用語にはしていない。公用語の数は、その国に言語がいくつあるかではなく、国が言語をどう扱うと決めたかを映している。
言語や文字の分類は研究者によって幅があります。本文は代表的な整理にもとづく概説です。