ことばKOTOBA
ことばのはなし — 文法
ev-ler-iniz-den

1語で1文になる言語——くっつける言語と、抱き込む言語

「食べたくなかった」は、食べる+たい+ない+た。部品をつないで語を伸ばす言語もあれば、名詞まで動詞に抱き込んで、文をまるごと1語にする言語もある。

2026-09-29 / 言語と物語の図鑑 編集部

「犬を持っている」が、1語で言える

グリーンランド語で「その人は犬を飼っている」は qimmeqarpoq と言う。これで1語だ。分解すると qimme-(犬)+ -qar-(持つ)+ -poq(彼・彼女が〜する)。日本語なら文になるものが、語幹に接尾辞を次々につないだ1語に収まっている。

グリーンランド語には派生の接尾辞が約400〜500、屈折の接尾辞が約318あるとされ、これを重ねていくと Aliikkusersuillammassuaanerartassagaluarpaalli(「とはいえ、あの人はすごい芸人だと言われるだろう、しかし…」)のような長い語もできる。英語なら10語ほど要る内容である。

ことばの「組み立て方」は、4つの型で語られてきた

語をどう組み立てるかで言語を分ける試みは、19世紀のドイツで始まった。シュレーゲル兄弟の分類を受けて、ヴィルヘルム・フォン・フンボルトが、死後の1836年に出た著作で言語を4つの型に整理した。いまもよく使われるのはこの枠組みである。

型しくみ例
孤立語語はほぼ変化せず、関係は語順や別の語で示す中国語・ベトナム語
膠着語意味ひとつにつき部品ひとつを、境目が見える形でつなぐトルコ語・フィンランド語・日本語
屈折語(融合語)ひとつの語尾に複数の意味が溶け合うスペイン語・ロシア語・ラテン語
抱合語動詞に名詞まで取り込み、文を1語にまとめるグリーンランド語・イヌクティトゥット語

「抱合的(polysynthetic)」という言葉そのものは、それより早く1819年に、アメリカ先住民の言語を調べたピーター・デュポンソーが使ったのが最初とされる。

くっつける言語——膠着語

膠着の「膠」は、にかわ(接着剤)のことだ。トルコ語の evlerinizden(あなたたちの家々から)は、ev(家)+ -ler(複数)+ -iniz(あなたたちの)+ -den(〜から)と、部品の継ぎ目がそのまま見える。フィンランド語の talossa(家の中で)も、talo(家)に -ssa(〜の中で)をつないだ形だ。

くらべると屈折語は、部品が溶け合っている。スペイン語の hablo(私は話す)の -o ひとつに、「私が」「現在」「直説法」がまとめて入っていて、どこまでが人称でどこからが時制か、切り分けられない。膠着語はこの逆で、一つの意味に一つの部品が対応する。

くっつける位置は後ろとは限らない。スワヒリ語は前にくっつける言語で、m-toto(子ども)が複数になると wa-toto になる。

抱き込む言語——抱合語

抱合語の特徴は、目的語になる名詞まで動詞の中に取り込めることだ。これを名詞抱合と呼ぶ。シベリアのチュクチ語では、「トナカイ」を意味する qora- を動詞の内側に入れた1語が、「トナカイ」を独立させた2語の言い方と同じ内容を表す。

日本列島にもこの型の言語がある。叙事詩ユーカラの言語である古典アイヌ語は、名詞や副詞を動詞に取り込む抱合的な言語とされる。ただし、現代の話しことばではこの抱合はかなり減っているという。

英語にも抱合の小さな名残はある。babysit(子守りをする)や breastfeed(母乳で育てる)は、名詞を動詞の前に抱き込んだ形だ。とはいえ英語でこれを自由に作れるわけではなく、決まった語に限られる。

型は、じつはグラデーションである

4つの型はわかりやすいが、現代の言語学では単純化しすぎだとも言われる。多くの言語は複数の型の性質をあわせ持つからだ。そこで『世界言語構造地図(WALS)』は、動詞1語に何種類の文法情報(時制・人称・否定など)が詰まるかを数えた。

約145言語を調べた結果、いちばん多いのは1語に約4〜5種類の言語で約52。ベトナム語は0で、最多はアメリカ南部のコアサティ語の約13である。地域で見ると、ユーラシアは少なめ、北米は多めという傾向がはっきり出た。1語に文を詰める言語は、北米の北から南まで広がっている。

で、日本語はどうか

日本語は典型的な膠着語だ。「食べたくなかった」は tabe-taku-nakat-ta、つまり「食べる+たい+ない+た」で、願望・否定・過去が一つずつ部品として並ぶ。「食べさせられなかった」まで伸ばせば、使役と受身も加わる。語順の型だけでなく、この組み立て方でも、日本語はトルコ語や韓国語とよく似ている。

ただし日本語は、名詞を動詞に抱き込むことはしない。「家を建てる」は「家」と「建てる」の2語のままである。同じ列島で話されてきたアイヌ語とは、ここで型が分かれる。ほかの言語がどんな組み立て方をしているかは、索引から一つずつたどってみてほしい。

つないで伸ばす日本語、溶かして縮める屈折語、文ごと抱き込む抱合語。1語の中に入るものの量は、言語ごとにこんなに違う。0から約13までの、ことばの詰め方