「本が2冊」を、1語で言う
英語は名詞を「1つ」と「2つ以上」の2種類に分ける。book と books だ。ところが世界には、そのあいだに「ちょうど2つ」専用の形を置く言語がある。これを双数(dual、両数とも)と呼ぶ。
代表はアラビア語である。正則アラビア語で「本」は kitāb、「2冊の本」は kitābāni。語尾 -āni がそれだけで「2」を表すので、数詞を添える必要がない。目的語になると kitābayni に変わる。2つのものを言うときは双数を使うのが決まりで、うっかり複数形にすると「3つ以上」と言ったことになる。
| 言語 | 1つ | ちょうど2つ | 3つ以上 |
|---|---|---|---|
| アラビア語(本) | kitāb | kitābāni | kutub |
| 北サーミ語(わたし) | mun | moai | mii |
| ハワイ語(彼・彼女) | ia | lāua | lākou |
名詞まで変わる言語、代名詞だけの言語
双数がどこまで及ぶかは言語ごとに違う。スロベニア語では名詞にも双数があり、「わたしたち2人」は midva、動詞も2人用の語尾をとる。北サーミ語も代名詞と動詞に双数を持ち、「走る」の現在形は3人称なら単数・双数・複数で別の形になる。
一方、太平洋の多くの言語では双数は代名詞にだけある。ハワイ語には名詞の双数はないが、「わたしたち」が4種類ある。聞き手を含む2人の kāua、含まない2人の māua、聞き手を含む3人以上の kākou、含まない3人以上の mākou だ。北極圏ではイヌクティトゥット語が双数を使い続けているが、親戚のグリーンランド語はかつて持っていた双数を失った。
「3つ」専用の形もある
2で止まらない言語もある。数の文法を体系的に調べた言語学者グレヴィル・コーベットは、著書『Number』(2000年)で、ちょうど3つを表す三数(trial)を持つ言語を挙げている。インドネシア東部、モルッカ諸島のラリケ語だ。ただしその三数は、3であることが大事なときだけ使い、ふだんは複数形で済ませる。
パプアニューギニアのスルスルンガ語は、単数・双数・三数・四数・複数の5段階を持つと報告されてきた。ただコーベットによれば、その「三数」「四数」はちょうど3や4ではなく、「少し」「いくつか」を表す。こうした形は少数(paucal)と呼ぶほうが実態に合う、というのが彼の見立てだ。「三数」という名前は、使い方より、もとの形が数詞の3から来たことを示している場合が多いという。
消えていった双数
双数は、古い言語ほど多く見つかる。印欧語の祖先である印欧祖語には名詞の双数があったと再構されている。サンスクリットは名詞にも動詞の3つの人称にも双数を持ち、「少年」bāla の双数は bālau だった。古代ギリシャ語にも双数があったが、紀元前4世紀ごろにはほぼ使われなくなった。
英語も昔は持っていた。古英語では「わたしたち2人」を wit、「あなたたち2人」を git と言った。その名残は、2つを前提にした単語の組に見られる。both と all、either と any、between と among。between は古英語 betwēonum にさかのぼり、もとは「2つのそばに」という意味だった。
ヘブライ語では、双数は「対になったもの」の名前に残った。-ayim で終わる語がそれで、yomayim(2日)、shnatayim(2年)のほか、raglayim(脚)、mishkafayim(めがね)のように、2つでひと組のものを指す語に使われている。
で、日本語はどうか
日本語は、名詞に単数・複数の区別を文法として持たない。「本」は1冊でも10冊でも「本」のままだ。だから双数もない。
それでも「2」を特別に扱う言葉はある。「どちら」と「どれ」だ。2つのうちから選ぶときは「どちら」、3つ以上なら「どれ」。英語の either と any の分け方とよく似ている。「両手」「両親」「両方」の「両」も、ちょうど2つでひと組のものに使う。2を特別に扱う感覚は、文法の語尾にしなくても、語彙の中に残っている。
言語や文字の分類は研究者によって幅があります。本文は代表的な整理にもとづく概説です。