語族の数は、数え方で約142にも約429にもなる
世界の言語をまとめる単位を語族という。ひとつの祖先——祖語——から分かれたと証明できる言語のあつまりのことだ。
では語族はいくつあるのか。これが言語はいくつあるかと同じくらい揺れる。Ethnologue 第27版(2024年)は約142語族に約7,151の現用言語を入れる。いっぽう Glottolog 5.3 は約7,674の言語を約246語族と約183の「孤立した言語」に分け、合わせて約429の単位を立てる。3倍近い差が出るのは、どこまでを「証明できた親戚」と認めるかの基準が違うからだ。
1786年、インド駐在の法律家が気づいたこと
語族という考え方の出発点は、たいてい1786年に置かれる。この年、カルカッタのアジア協会で、イギリス人の法律家ウィリアム・ジョーンズが講演した。サンスクリット語とラテン語・ギリシャ語の語彙と語形変化は似すぎており、偶然では説明できない。この3つは共通の源から出たのではないか。彼はそう述べ、ゴート語やケルト諸語、ペルシア語も仲間だろうと付け加えた。
実際、ペルシア語の「母」は mādar、「兄弟」は barādar で、英語の mother・brother とほぼ並んでいる。
決め手は、似ている語ではなく「音のずれの規則性」
似ている語を並べるだけでは証明にならない。偶然もあるし、借用語のこともある。語族を確かめる作業——比較方法——が使うのは、もう少し地味な手がかりだ。音の対応が規則的にそろっているかである。
有名な例が、ヤコブ・グリムが1822年に体系的に示した「グリムの法則」だ(先にラスムス・ラスクが気づいていた)。印欧祖語の p は、ゲルマン系の言語では f に変わっている。
| 意味 | ラテン語 | 英語 |
|---|---|---|
| 父 | pater | father |
| 魚 | piscis | fish |
| 足 | pedes | feet |
1語だけなら偶然で済む。だが p と f のずれが語彙のあちこちで同じように起きているなら、ひとつの祖語に起きた変化の跡だと言える。だから比較方法では、借りられにくい語——数詞、親族名称、体の部分——が重視される。「パン」は簡単に国境を越えるが、「二」や「耳」はそうならない。
逆に、隣どうしで長くつきあった結果、系統は別なのに文法だけ似てくることもある。これは語族ではなく言語連合(シュプラハブント)と呼び、別あつかいにする。
大きい語族と、広い語族
語族の「大きさ」は、話し手の数で見るか、抱える言語の数で見るかで順位が入れかわる。
| 語族 | 言語数 | おもな広がり |
|---|---|---|
| インド・ヨーロッパ語族 | 約450 | ヨーロッパ・イラン・北インド。話し手は約33億で最多 |
| シナ・チベット語族 | 約458 | 中国・ヒマラヤ・ミャンマー。話し手は約14億 |
| ニジェール・コンゴ語族 | 約1,552 | サハラ以南のアフリカ。言語数では最多 |
| オーストロネシア語族 | 約1,256 | マダガスカルからラパ・ヌイまで |
上位5語族(この4つとアフロ・アジア語族)で世界人口の約6分の5が収まり、残りの400あまりが6分の1を分け合っている。
地理的な広さではオーストロネシア語族が際立つ。西のマダガスカルから東のラパ・ヌイ、北の台湾から南のニュージーランドまで。祖語の故地は台湾とされ、拡散の始まりは約5,000年前と考えられている。ハワイ語とマオリ語とマラガシ語は、海をまたいだ親戚である。
親戚が見つからない言語もある
証明できる親戚がひとつも見つからない言語を孤立した言語という。Glottolog はこれを「一員だけの語族」として約183数える(もっと厳しく見る整理では約129)。
代表格がバスク語だ。周りをインド・ヨーロッパ語族に囲まれながら、どの語族にも入らない。アイヌ語も同じで、日本語と語彙のやりとりはあるが、系統としては別である。
孤立とは「起源が不明」ではなく「比較方法で結べる相手が見つかっていない」という意味だ。親戚がすでに消えていれば、対応関係は復元できない。逆にフィンランド語とハンガリー語は、地図上は遠く見た目も似ていないのに、同じウラル語族としてつながる。
で、日本語はどうか
日本語は孤立した言語として紹介されることが多いが、正確には日琉語族という語族に属する。日本語と、奄美・沖縄・宮古・八重山・与那国などの琉球諸語が、その成員だ。祖語である日琉祖語の再建は進んでおり、日本語側と琉球側の分岐はおそらく7世紀より前とされる。伊豆諸島の八丈語も含まれるが、家系図のどこに置くかは定まっていない。
では日琉語族の外に親戚はいるのか。かつては朝鮮語・モンゴル語・トルコ語などをまとめる「アルタイ諸語」説が唱えられたが、想定された同源語が成り立たず音の対応も見つからなかったため、いまは比較言語学者の多数が支持していない。近年は「トランスユーラシア」の名で議論が続くが、決着はしていない。
言語や文字の分類は研究者によって幅があります。本文は代表的な整理にもとづく概説です。