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ことばのはなし — 文法
tayo · kami · yumi

「わたしたち」が2種類ある言語——聞き手を含むか、含まないか

「わたしたち」に、聞いているあなたは入っているのか。それを単語で言い分ける言語が、世界の約3割ある。フィリピンからアンデス、北京まで。

2026-10-19 / 言語と物語の図鑑 編集部

その「わたしたち」に、あなたは入っているか

「わたしたち、明日は休みなんだ」と言われたとき、聞いている自分も休みなのかどうかは、日本語ではわからない。話し手の仲間だけの話かもしれないし、自分も含めた話かもしれない。英語の we も同じで、文脈に任せている。

ところが世界には、この2つを別の単語で言い分ける言語がある。聞き手を含む「わたしたち」を包括形(inclusive)、含まない「わたしたち」を除外形(exclusive)と呼ぶ。両者の区別は包括・除外の区別(clusivity)という。

kami と tayo——2つの「わたしたち」

代表はフィリピノ語(タガログ語)である。聞き手を含めるなら tayo、含めないなら kami。店員が客に「わたしたち(店の者)は10時に閉めます」と言うなら kami で、友人に「わたしたち、一緒に行こう」と言うなら tayo になる。言い間違えると、仲間に入れたつもりの相手を締め出したり、関係のない相手を巻き込んだりする。

言語聞き手を含む聞き手を含まない
フィリピノ語tayokami
インドネシア語kitakami
ケチュア語ñuqanchikñuqayku
グアラニー語ñandeore
タミル語nāmnāṅkaḷ
ベトナム語chúng tachúng tôi

インドネシア語では、話しことばで kita が両方の意味に広がりつつあるとされる。ベトナム語の除外形 chúng tôi は、改まった「わたし」tôi から作られている。タミル語では、2つの「わたしたち」が同じ動詞の語尾をとる。代名詞だけが区別を担っているわけだ。双数の話で触れたハワイ語やマオリ語のように、「2人」と「3人以上」をさらに分けて、「わたしたち」を4種類持つ言語もある。

英語から生まれた言語でも分ける

おもしろいのは、パプアニューギニアのトク・ピシンだ。語彙の多くを英語から借りたクレオールなのに、英語にない区別を持っている。聞き手を含む「わたしたち」は yumi(you + me から)、含まない「わたしたち」は mipela(me + fellow から)。さらに2人用の yumitupela(あなたとわたし)、mitupela(彼とわたし、あなたは除く)まである。

単語は英語でも、区別のしかたは周りのオセアニアの言語にそろっている。英語の材料を使って、地元の言語の文法の型を組み立てた、と見ることができる。

どこの言語が分けるのか

世界の言語構造を集めたデータベース WALS で、ミヒャエル・ツィソウは約200言語の独立代名詞を調べた。包括形と除外形をはっきり区別するのは約63言語、包括形だけを別に持つのが約5言語、区別しないのが約120言語だった。おおよそ3割強が分けていることになる。

分布には偏りがある。オーストロネシア語族ではほぼ全体に見られ、インドのドラヴィダ系の言語にも多い。南北アメリカの先住民の言語では約半数が区別する。逆にヨーロッパでは、コーカサスを除いて区別する言語が見当たらない。スペイン語や英語の話者にとって、これは「知らない文法」だった。

ヨーロッパ人として最初にこの区別を記述したのは、スペインの修道士ドミンゴ・デ・サント・トマスとされる。1560年にバリャドリッドで出版したケチュア語の文法書で、2つの「わたしたち」を書き分けた。

区別は増えたり減ったりもする。WALS によれば、モンゴル語のハルハ方言は区別を失い、中国語の北方方言は逆に獲得した。中国語の普通話では、咱们(zánmen)が聞き手を含む「わたしたち」で、我们(wǒmen)はどちらにも使える。北京などの北方でよく聞く言い方で、親しみをこめた響きもある。

で、日本語はどうか

WALS でも、日本語は包括・除外を区別しない言語に分類されている。「わたしたち」「われわれ」「ぼくら」は、語の選び方で改まり度や話し手の性別のにおいは変わっても、聞き手を含むかどうかは示さない。

そのかわり日本語は、文の別の場所でそれを伝える。「一緒に行こう」「みんなで決めよう」と言えば、聞き手は自然に含まれる。「うちの会社では」「こちらでは」と言えば、聞き手は外に置かれる。代名詞が黙っている分を、言い回しが補っている。

「わたしたち」の境界線を、単語で引くか、文脈で引くか。世界の言語の約3割は、単語で引いている。WALS 39A(約200言語の調査)より
出典・参考:WALS Online: Chapter 39 Inclusive/Exclusive Distinction in Independent Pronouns (Cysouw) / WALS Online: Japanese(39A) / Wikipedia: Clusivity / Wikipedia: Tok Pisin / Wiktionary: 咱們
言語や文字の分類は研究者によって幅があります。本文は代表的な整理にもとづく概説です。